12人

缶をパカッっと開けると、中から人がドドッと出てきた。こんなミカンの缶詰みたいな大きさの缶から人が?
えーと、12人も?
異常な光景に驚くよりもまず、人に見られてはマズイ部屋だということが先にたった。
なんだこのレインコートのオッサンとか警官とかのオッサン軍団は。って警官が混じってるのかよ!? 非常にまずい。
12人のオッサンは、みな、うめき声を発しながら意識が朦朧としているようだ。重なり合って横たわり、目を覚ますか覚まさないかといったところだ。
どうしたものか、逃げ出すべきか、でもここ俺の部屋だし、と当惑していると、そのうちの1人の警官の制服を着たオッサンが、
「ここはどこだ?」
と聞いてきた。なんだ、缶にギチギチにつめられるときの記憶が無いのか?
とっさに、自分の部屋ではないというウソを言っておくべきだと思った。
「いや、よくわかんないです。俺も。今、目を覚ましたところで」そうだ、俺も一緒に缶から出てきたことにしよう。「缶から出てきたばっかりで」
「缶だと!?」その警官の目つきが変わったように見えた。「そういえば、缶のようなものを見たところで記憶が途切れている」
「そうなんですよ。俺も缶に閉じ込められちゃって」俺も今出てきたフリがうまくいったと思った。
警官は、「ふーん」と少し考えるようなしぐさをした。そして、隣でうめき声を上げながら今起き上がろうとしているレインコートの別のオッサンに向かって聞いた。
「どこから出てこられました?」
レインコートのオッサンは、
「はぁ……なんというか、気が付いたらここにいました。なにが起こっているのやら」と答えた。
警官は言った。「私は、『缶に閉じ込められた』なんて感覚はなかったんだけどな」
もう何人も目を覚ましている。警官は皆に聞いていく。
起き上がってきた誰も、缶に閉じ込められたとは言わない。
そして、警官が俺に向かって、なぜ缶から出てきたなんて言うんです? と詰め寄ってくるかというところで、
「あの、私も一応警察官なんですけど、何かお手伝いできることがありませんかね?」と、レインコートのオッサンが言った。
俺は戦慄した。
「あれ、私も警察官ですよ」
「私もです」
「ああ、わしもだ」
「なんだこの警官の集まり? いや私もですが」
「俺漏れも」
なんで1人だけフリーターが?
「あ、なんで雑誌のヤマの下に拳銃があるんです?」
「おい、それこの前盗まれたやつなんじゃないか」
「こっちにはモデルガンがありますよ。それも改造品みたいな」
「誰の部屋なんだ?」
「あれ? フリーターさん変な汗かいてません?」
俺は捕まった。
空き巣に入って、蔵の奥の謎のカンヅメもついでに失敬してちょっと変わった夜食にでも、と開けたのが運の尽きだった。取調べ中に知ったところによると、警察手帳を感知して人間を吸い込んで閉じ込めるトラップだったそうだ。公務員に強い恨みのあるマッドサイエンティストが作ったらしい。なんだそりゃ。
「刑事喰う缶」完。
一応、google:啓示空間