宝物庫

村長は聞き取りにくい声でなにやらつぶやいた。
私はだいたい次のように聞いたと思った。
「スモール……ド……まる……とり……」
私は、何を言っているのか理解不能状態だと返事をした。
村長の従者が、
「村長のおっしゃることをはばかりながら通訳させていただくと――必ずしも正確ではないかもしれませんが」
と前置きして補足した。
「街の外の蔵は小規模な要塞として使われていて、多くの貴重な品物が蓄えられていました。しかし今ではモンスターどもに占拠されてしまっています。どうか蔵から『つらぬき丸』と呼ばれる短剣を見つけ出し、我々の元に持ち帰って下さい! ――」
二十分後に準備を終えた私は言われた宝物庫に侵入した。
宝物庫に入るとまず犬の群れが出た。そして人型の生き物の集団やドラゴン、ニセドラゴン、赤ドラゴン、青ドラゴン、白ドラゴンなど多彩な護衛が出た。それらは水溜りを勢いよく踏みつけたときの水しぶきのように襲い掛かってきた。
私はそれらを秒殺した。
モンスターは一掃したものの、どういうわけか剣は一振りも見つからなかった。
『つらぬき丸』などと名のあると思えるものどころか、一振りもないのだ。
私は二回ほど精査してから帰ろうと考えた。
いくつかの部屋の内の一つの壁に注目したとき、そこには割れたビンがいくつかあり、それが――どういうわけか――それで殴りつける拷問に使われたのではないかと思った。
私がそんな想像をしはじめたそのとき、誰も居ないはずの背後から突如として声が聞こえた。
「俺がつらぬき丸だ……」
私が驚いて振り返ると、そこには、肉塊が居た。
ビンで五〇〇回殴ったあと割れたビンで滅多刺しにする拷問に耐えて生き返ったといった感じの肉塊だった。
彼はどうやらここの主(ぬし)だと私は経験から読み取った。
私は、ボスの名乗り口上を聞いてやろうと思った。それは次のようなものだった。
「俺は世界最強の格闘技『スモーゥ道』を世界最強と知らしめようとしていた。今の村長であるあの男と共にな。しかし村長はスモーゥ道免許皆伝者だったがスモーゥ道を裏切って俺を亡き者にしようとした。村長はスモーゥ道を、世界を滅ぼす危険な力だと言い張り、自身が引退すると同時に俺を殴り殺してここへ封じ込めた。俺は殺されたかもしれないが、スモーゥ道には死してなお神の領域の力を引き出す技がある……。そして俺は、確かに……『短剣(トァン・ケン)』ことセキトリ『貫貴丸』は、確かに世界を滅ぼす力を持っていた――」
私はそのへんまできたところで聞くのと考えるのが面倒になったので彼の頚を狙って攻撃し、頚を斬り、それを倒した。首を切断すると、少なくとも横隔膜の働きが頭部に伝わらないので呼吸は止まり、それによりうるさいセリフは聞かなくてすむようになる。
 * * *
「その剣はお持ち下さい。これからの冒険の助けになるでしょう」
建物に入ると同時に村長の従者がそういうのを聞いたとき、私は理解不能状態だった。
従者はおもむろに何か呪文を唱えた。
すると私が抱えていたトァン・ケンのゾンビの生首がビクビクンと動いたような気がした。そしてそれの中から何か液体が染み出してきた。
「『シォチャンコ』と呼ばれる、塩水の薬を作る術です。昔から、『冒険の食べすぎに関して助けになるでしょう』と言われています」