サンタは殺されて、いません

テレビと同じものが欲しい。と思ってばかりいる子供だった。
バーモントカレーというカレーのTVCMがある。いや過去形かな。あった。
「リンゴとハチミツ恋をした」
「なのに、なんでリンゴもハチミツも入れないで作るんです母上?」
と思っていた。
「リンゴとハチミツなんか入れたらオマエ、えらい破滅的な味の、嘔吐感を伴った食事をするハメになるんじゃないか?でもTVで言ってるんだからそれでも食える味なんだろうな、食ってみたい、なのになんでリンゴもハチミツも入れないんだ?」
カレーが出てくるときにいつもそういうふうに、そこはかとなく、思っていた。
だが、「なんでリンゴもハチミツも入ってないの?」とたずねる勇気が無かった。
そう聞くことは親に対する反逆的態度であり、血骸帝ヴォラギノールに対する雑魚スケルトンのごとく、疑うことすら自分自身の中では考えもできない、忠実な奴隷、そう、親は絶対であり、親に怒られることはこの世で最も避けなければならない最重要項だった、そんな世界に住むおガキ様には、出されたカレーをただただ食うことしかできなかった。
バーモントの真実とサンタの真実を知ったのはいつ頃だかが思い出せないという話。