「“裂帛の拳(れっぱくのけん)”タダシ」

「タダシはいつも正しい……」というのはタダシの友人ヒロナオの言葉である。タダシはバーチャロンで鍛えたロボット操縦技術をリアルのロボットで生かすことができた最初の者達のうちの一人だ。「リアリャロン計画」は、ボタンのついたスティック二本のジェスチャーでヒト型ロボットを操作することが可能でなくてはならないと信じた《狂ったロボ学者》というチームによって秘密裏に実行されていた。リアリャロン第一四号機はバーチャロン世界チャンピオンであるタダシの脳の性格と腕と手と指に最適化するように作られており、それは「シンクロ率」と呼ばれる指数が最高で129.3%を記録するほどにタダシになじんだ。タダシは殴ることにかけてはパンチングマシーンで290とか出すしというほどの天性の才能を持っていて、“裂帛の拳”と自分を呼ぶほど調子に乗ってしまった。一四号機のパンチ力は敵を30回は殺すほどの威力だったのだ。“裂帛の拳”の呼び名は当然“裂帛の拳(笑)”と呼ばれるようになった。しかしタダシは「“裂帛の拳”の所以(ゆえん)をお教えしよう!」と戦場でさらに調子に乗ることによりその「(笑)」を克服した。そのうち対戦相手の兵士たちにも裂帛の拳という呼び名は広まった。確かに、“裂帛の拳(笑)”を克服する破壊力こそが“裂帛の拳”の“裂帛の拳”たる最大のポイントかもしれない。「タダシはいつも(たとえば彼自身が裂帛の拳を名乗ればそれはもう裂帛の拳としかいえないほどに)正しい……」とヒロナオは言っているのだ。