ウサギ

人食いウサギ島(じま)は伝説の存在として語られていたが、今から二年前に実在することが確認された。
この島は今から百十二年前の1×××年にいちど人類に発見され、そのとき人食いウサギ島とよばれることになった。初上陸した探索者たち三十人のうち一人だけが生き延びて国に帰り、他の全員はウサギに喉を食い破られて食い殺されたと言い残したのだ。
そのようなウサギがいることに皆が半信半疑だったが、あるきっかけで疑と偽のほうに皆傾いた。きっかけは詩人エイチジェントルが「人食いウサギのような」というたとえを「あるはずもない」という意味でつかったのが広まったせいだった。それにくわえて今から二年前までにいかなる探検隊もウサギを見て帰ってきはしなかったため島の存在自体がほぼ未確認だったのもある。
さて、はたして人食いウサギ島は実在した。
しかしそこには蟻(アリ)を主食とするウサギしかいなかったためはじめはそこが人食いウサギ島とは気付かなかったのだ。
つまりこうだ。島にはもともと草食の普通のウサギばかりがいたのだが、あるとき突然変異種の肉食ウサギが現れた。肉食系というのは繁殖力が強いというイメージがあるがそのように肉食ウサギは爆発的に増えた。そして増えながら草食ウサギを食べ尽くした。ここの段階で百十二年前の探検者たち三十人が上陸したのだった。その直後にかけてエサがなくなった肉食ウサギは共食いをして滅びていった。しかし全滅はしなかった。肉食ウサギの中に、有用な突然変異を持ったものが出たためだ。前述のように、アリクイウサギがあらわれ、生き残ったのだ。「普通の肉食ウサギと渡り合える戦闘能力とアリを食べる能力を持ったウサギ」と「エサの無い普通の肉食ウサギ」が競争し、前者が生き延びたわけだ。